vol.1 堀田力さん
  vol.2 吉行和子さん

松井:吉行さんはこれまで本当にたくさんの現場を体験されてきましたが、「折り梅」の現場は、いかがでしたか?

吉行:最初は、女性監督だということでちょっとだけ心配しました。前の経験で、それはテレビでしたけど、女性の監督だとスタッフの人たちがとても冷たいことがある、と思うことがあったんです。ですから今回もそこが心配でした。もしかしたら松井監督は、やりにくいだろうな、かわいそうだな、って。でも実際はそんなことなかったわね。カメラの川上さんはじめ、みんなとても協力的だったから、ああ、いい現場だなって思いました。前に経験したような、ぎくしゃくしたものは全然感じなかったですね。
  現場にいるといろいろと見えてしまうんですよ。監督が一言何か言う度に、そんなの出来ないよ!みたいな、協力的でない態度っていうのも何度も見てきたの。だから、女性の監督っていうのは、よっぽど自分でやりたいことがはっきりしていないと、ちょっとでも揺らぐと、すぐなめられちゃうっていうことを知っていたから。だから松井さんは随分頑張ってるな、と思ってました。「私がそう撮りたいの!」とかおっしゃってたから、「よしよし、それでいいんだ」って思ってました(笑)。

松井:監督の仕事って、ほんと被害妄想に陥るというか、孤独というか。みんなは別に批判しているわけでなかったとしても、ちょっと首を傾げられるだけで、もうすごく背かれてるんじゃないかと思ってしまったり。ほんとに毎日が、針のむしろというか。でも今回のスタッフの人たちは、とても温かくて、いつも私を信頼してくださってたように思います。

吉行:良い現場だったと思いますよ。役者っていうのは、ほんとに我が儘(笑)。ちょっと甘い顔したら、女優さんてすぐイバルわよ(笑)。ほんとにすごいですよ。だから、そこら辺をガッと押さえてたっていうのは、やっぱり並大抵なことではなかったと思います

松井:いや。それは吉行さんが私を信じてくださったからなんです。今回、主演の女優さんがお二人いたということは、私にとってとても楽でしたね。お一人だと、どうしてもその方に現場がひっぱられていきますよね。だからお二人のバランスがすごく良くて。原田さんとの間に強い信頼感があったというのが良かったと思いますね。

吉行:そうですね。原田さんが出演された映画は見てたから、この人とがっちり組んでいけばうまくいくだろう、と思ったし。それに原田さん偉いなと思うんですよ。年令とか関係なく、スターっていうのは、とんでもない人が多いですから(笑)。どうしちゃったんだろう、って思う人が多いですからね。そういう意味では原田さんはとてもいいですよね。

   

 

松井:私も吉行さんや原田さんのような女優さんが、日本にはほんとに少ないと思います。今後女性である私が監督をやっていく上で一番の課題は、女優さんとどういい関係が持てるかということなんです。
  こないだ新藤兼人監督の文化勲章のお祝いパーティの時に、大竹しのぶさんが監督に花束を渡されて、「新藤監督は色っぽいんですよ、『今日も綺麗だね』と言ってくださって」と祝辞を述べられた。そしたら新藤監督、「女優さんには、『綺麗だね』と言わないといいお芝居をしてもらえないから、『綺麗だね』が口癖になってしまって・・」とテレながら仰って(笑)。 あれがほんとうに象徴的だと思うんですよ。
  つまり女優さんというのは、男性の監督から見て綺麗だとか色っぽいということで存在価値を見いだしてこられたのだとすれば、女性の監督が「綺麗だね、吉行さん色っぽいですね」と言ったって、吉行さんはちっとも嬉しくないわけですよね(笑)。

吉行:私は、今までに頂いた役柄のせいかもしれませんが、かわいいとか綺麗だとかいうことで勝負できないというか、そこら辺で勝負したことがないんです。

松井:「愛の亡霊」の時はどうでしたか?

吉行:「愛の亡霊」の時なんてもっとひどくて、大島渚監督から「誰でもよかったんだ」と言われて(笑)。「にあんちゃん」の時は、「とにかく太れ、太れ」とそればっかり。日活にかわいい女優さんはいっぱいいたけれど、みんな太ってないから、私はまん丸い顔だったから、あとは体さえ太ればいいんだとか言われて、こんなにパン積み上げられて朝から食べさせられたりして(笑)。だから、かわいいとか綺麗だとかは期待されてないんですよ。

松井:私、吉行さんは日本の女優さんの中でも特に色っぽい方だと思いますが。

吉行:色っぽいって言う人と、全然色気がないって言う人とに分かれますね。だから若い頃は私、色っぽいって言ってくれる人は、私の中に何かを見つけてくれていて、色っぽくないっていう人は、いわゆる芸者さんみたいなナヨナヨしたものを色っぽいっていう男なんだ!と思うことにしていたんです(笑)。だから、かわいいね、好きだよとか言われて育ってないから、今とても楽なのかもしれないですね。だから私は違うポジションにいるなと思ってます。

   

 

松井:私が繰り返し思うことは、女性監督のハンディキャップは、職人気質のスタッフがついてきてくれないんじゃないかということよりも、女優さんと、どう本質的な意味でのいい関係を築けるか、ということなんですね。それが一番のハンデだと思ってます(笑)

吉行:大島渚監督がフランスで映画を撮った時に、日本の女優はほんとにダメだ、とおっしゃるんです。なぜダメなのかというと、かわいぶらなきゃ役がもらえないと思ってるって。ところが、外国の女優さんはどんなに若い女優さんでもオーディションに一人できて、平気で対等に喋ると仰ってました。だから日本の女優さんも変わっていかなくちゃいけないんですよね。
 こないだジャンヌ・モローが来日したでしょ。それで、ジャンヌ・モローに会った友人が言うにはね、ジャンヌ・モローは素敵だったって言うんですよ。何が素敵かって聞いたら、すごく計算がないって。女優さんというのは、自分はこういう人間だということをまずアピールするために、計算を感じるんですって。ジャンヌ・モローの若い頃はどうだったかわかりませんが、今あの年になった時に日本に来て、何者かもわからない初対面の人に質問されたことに対して、全然計算しないでそのときの自分の気持ちで答えてるのがとてもよかったのよ、って私の友人が教えてくれたから、そうか、計算がないことがこれからの課題かなと。

松井:私、実は昔雑誌の仕事をしてた頃に一度だけ、吉行さんにインタビューでお会いしたことがあったんです。その時の吉行さんもジャンヌ・モローと一緒でした。新米の取材記者にも、昔からの仲良しのように、ふわ〜っと優しく受け止めてくださって、こちらの緊張をいっぺんで解いてくださった。そんなことは滅多になかったのでとても印象に残ってるんです。

吉行:結局それは相手を信頼するということにもつながるんですね。相手を疑っているから自分を固めてしまうわけでしょ。どんな人かわからなくたっていいんですよ。とりあえず自分の目の前の人を信頼すれば、計算なんかしなくても自分の思ったことを言えるし、自由な気持ちでいられると思うんですね。

 
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